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時間どろぼう

岩波少年少女の本に「モモ―時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語」というのがおさめられている。とても興味深い。

ある村はずれに一つの廃墟があり、その中の半ばこわれかかった建物に、ある日、みすぼらしい一人の少女がどこからともなく来て住みついた。その名はモモというのであった。

ところで、村人たちの生活は、モモが来てからというもの見違えるほど明るくなった。なぜならモモは、相手の話を聞くことがたいそう上手で、訪れる村人たちの悩み、愚痴などを時間を惜しまず聞いてやり、また子どもたちとも遊んでやったからである。

ところがその町に灰色の装いをした「時間どろぼう」の一味が現われ、村人の一人一人に時間を節約して、余った時間を「時間貯金銀行」に預けるようにとすすめ始めたのである。

村は一変した。今まで世間話をしながら、たっぷり一時間かけて、ていねいにお客に髪を刈っていた理髪屋のおやじは、むっつり押し黙って、三十分で仕上げてしまうようになった。残りの三十分はもちろん銀行に預けるのだ。

ともかく皆忙しくなった。親たちも、子どもたちの世話をする時間を節約する始末である。

モモは、この時間どろぼうと一戦を交え、貯蓄銀行の厚い鉄の扉をこわして、中に閉じ込められていた時間を再び村人にとり戻してやる。村には笑顔と平和が戻ってきた、という物語。

私たちも、知らず知らずのうちに、この灰色の時間どろぼうの手先に踊らされているのかも知れない。自然を見つめ、自然と親しむ時間もなく、他人の話に耳を傾ける時間を惜しみ、いつか「人間らしさ」を失いかけているのかもしれない。 

最近按手祈祷を通して、超多忙人が不思議と時間がとれ、聖書を読み、祈りの生活がなされているときいている。聖霊様は時間どろぼうに勝つお方。

一九九三年七月十一日

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