石の枕
ヤジロー 日本人最初のクリスチャンを紹介する。ヤジロウ。
この人物は人をあやめて外国に逃げた男。一五四六年(天文一四年)のことである。
人を殺してしまい、苦しんでいるヤジロウなる男に商船に身を隠して国外脱出をすすめたのは、当時鹿児島に出入りしていたポルトガル商人。
船は波とうを越えて南のマラッカへ。明るくて開放的な町だった。
ヤジロウの心も久しぶりに明るかった。来る日も来る日も船の中で、初めてキリシタンの教えにふれた。一度は髪までそって犯した罪を悔いたヤジロウだったが、心は静まってはいなかった。そこへ、異国の宗教であるキリシタンの教えが、なぜかしみ入るように入ってきたのだった。
しかもその上、到着したマラッカには、フランシスコ・ザビエルがいた。このスペイン人のイエズス会士は、東洋伝道の情熱に燃えてこの町へ来てまだ間がなかった。ヤジロウは彼の導きを受け、やがて洗礼を受ける。
ザビエルもうれしかった。東インド諸島やマラッカだけでなく、彼は日本伝道を考えるようになった。ヤジロウの受洗は天の配剤と思えた。
ヤジロウはヤジロウで、自分が日本最初のキリシタンとは知らなかった。ヤジロウは生まれ変わった。ザビエルも、この利発な若者を愛した。ヤジロウを通して想像する日本には、彼のような人間がまだたくさんいると思い、大きな夢をもって日本に来た。一五四九年のこと。
彼は二年二ヶ月で日本を去った。その後多くの宣教師の来日があり、三十八年後には、なんと三十万人のクリスチャンが生み出された。当時の日本の人口は二千万人といわれるから、ものすごいパーセンテージとなる。
命がけの宣教には奇跡が伴う。歴史が立証し、私たちを励ましてくれる。毎日曜ごとに人々が救われるように祈り、知人友人をお誘いしよう。
一九九二年五月三十一日
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